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「ACLという、このクラブにないタイトルも目の前にある。全力を尽くしていきたい」

 8月4日、チーム合流初日。ジーコの視線には、アントラーズが到達しなければならない景色が映っていた。国内3タイトルに言及した後、刻まれた抱負。今年こそ、アジアの頂へ――。「Jリーグで最多タイトルホルダーになった。国際タイトルを獲っていないと言われるが、世界2位になった日本唯一のクラブでもある。そして今季、獲ることができる状況にあるんだ」。クラブへの愛情と、積み重ねてきた実績への誇りを言葉に滲ませながら、だからこそ募る悔しさを隠すことなく――。

「90分プラスアルファのところで何が起きるかはわからない。最後は悔しい失点の仕方だった。前のプレー、前の前のプレーからやれることはあったと思う。悔しい」

 4日前、聖地を待っていたのは失意の結末だった。後半アディショナルタイム、痛恨のPK。サックスブルーの歓喜とともに、アントラーズは2ポイントを失った。1点を守り切るために、勝利の瞬間を迎えるために「もっとできることがあった」。しかし、時間が戻ることはない。「悔しい」と繰り返しながら、険しい表情で言葉を並べたのは土居だ。「得点云々よりも、勝ち切らなければいけない試合だった」。鹿のエンブレムを纏って初めてゴールネットを揺らした犬飼もまた、センターバックとしての任務を遂行できなかった己と向き合いながら、胸に去来する思いを明かしていた。

「みんな、もう顔を上げている。切り替えてやっていくだけ」

 それでも、選手たちは前を向いていた。「次はACLだが」と質問が飛ぶと、視線は自然と上へと向いた。その眼光に決意が宿った。「次もホームだし、無失点に抑えないと」。犬飼が誓う。「まずはリカバリーをする。ホームでアドバンテージを持って、第2戦に臨めるようにしたい」。ミドルゾーンを制圧し続けたレオ シルバも、来たるべき大一番を見据えて決意を述べている。聖地で迎える“前半90分”、チーム一丸で勝利を――。準備はすでに、始まっていた。

「ラウンド16の上海上港戦に“壁を超える”という思いで臨んだ。そこで壁を超えて、次に目指すこと、“もう一つの壁を超えるんだ”という気持ちは選手、スタッフ、クラブ関係者、みんなが持っている」

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 8月27日、青空の鹿嶋。大一番を前にしたクラブハウスに、アントラーズスピリットの神髄が強く深く刻み込まれた。ミーティングルームに響き渡った、情熱に満ちた檄――。チーム合流後、一挙手一投足を見守りながら鋭い眼光を飛ばし続けていたフットボールの神様が、チームの士気をさらに高めていく。そして、決戦への最終準備を終えて前日会見に臨んだ指揮官は、決意に満ちた表情で抱負を刻んでいった。「“もう一つの壁を超えるんだ”という気持ちは、チーム全員が持っている」。「悲願」と表現したアジア制覇への渇望を真っ直ぐに語り、勝利を誓って会見場を後にした。

 “壁を超える”――。5月16日、アントラーズは上海での死闘を全員で走り抜いてラウンド16を突破した。「いいゲームかと言われればそうではない。でも、突破できて良かった。みんなの強い意志があった」。“鬼門”に呼ばれるに至った失意と屈辱の歴史を塗り替えるべく、総力戦で突き進んだのだった。アントラーズのDNAを継承する鈴木は「ここで満足している選手はいない。決勝まで一つひとつ勝ち上がれたらいい」と、タイトルへの渇望を改めて語っていた。

「16年前に離れた時から大きく変わったことはない。一つ変わったこととすれば、下部組織から選手がトップチームに上がってきているということだ。当時はあまり実現できなかったがね」

「今では数名の選手がジュニアユース、ユースから育ってきてトップに上がっている。彼らは子供たちの目標であり、夢を抱けるようになっている。そうでなければならないと昔から言ってきたが、それができるようになったのはクラブとしての成長だと思う」

 一つ目の壁を超えた上海での死闘は、ジーコがハットトリックとともに物語を記し始めたあの日から、ちょうど25年目の夜でもあった。1993年5月16日から、2018年5月16日へ――。ホームスタンドを沈黙させた値千金のアウェイゴールは、アカデミーから日々着々と進化を遂げてきた、背番号8が刻んだスコアだった。脈々と受け継がれてきた思いを、一丸となって築き上げてきた歴史を、「クラブとしての成長」を体現する土居が上海のゴールネットを揺らした事実を、全てを噛み締めた先で、ジーコと再び歩みをともにすることとなった巡り合わせを思う。アジアの頂へ上り詰める決意が、闘志が、胸の奥底から沸々と湧き上がってはこないか。

「まずは第1戦に集中して取り組めば、いい成果を得られると思っている。やるべきことに集中して取り組めば、おのずと結果はついてくると思う」

 アントラーズスピリットの神髄が説いたのは、いつ何時も変わらない、変わることなどあってはならない姿勢だった。目前の戦いに全精力を傾け、全身全霊を注がずして、求める場所へ到達することなどできない。だからこそ、今夜。聖地で戦う、前半90分――。アントラーズファミリーの総力を結集し、勝利を掴みに行くのみだ。

 アントラーズの歴史に書き加えなければならない栄光の章、到達しなければならない景色へ――。鹿のエンブレムを纏う全ての者が、渇望してやまない栄光の瞬間を、今年こそ。頂への道のりを、全員で突き進むために。ACL準々決勝、第1戦。“こえる”ための戦い、第2章。アントラーズファミリーの力を総結集させて挑む、大一番が始まる。

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